泣きじゃくるM国の若手官僚の男子。熱血指導をする上司とそれを眺める僕、定例ミーティングが行われた会議室とは別の場所で開催された面談はカオスな雰囲気に包まれた。
サオジー君が単位を落とす寸前だという事を知った上司はそれはそれは素晴らしいコンティンジェンシープランを彼のために策定し、説明した。まあ既に危機は到来したのだが。
補足: コンティンジェンシープランとは金融機関が予め想定される異例事象に係るリスクを評価し、それに対処するためのプランを策定する事を指す。例えば金融危機が到来した際、会社のどの部署が、どの部門に対して、何の資産を、いつ迄に売却し手元資金を確保すると言った感じだ。このようなプラン策定はリーマンショック後金融業界では一般的な慣習となった。
上司のプランは以下のような構成とサオジー君からヒアリングした問題点はこんな感じだ。
・現状評価・認識:
授業は出席率100%、クラスでは特段発言は行わないが、自分以外の留学生だって同じだ、課題レポートを教授に渡した際も特段のフィードバックはない、つまり問題は無い。
・想定リスク:
このままだと単位を落とす可能性がある旨伝えられた事に対して、同じクラスにいるM国留学生も同じ状況だと考えており、それにも関わらず自分だけこのような事言われるのは心外で大変驚いている。単位を落とすことは派遣元のM国省庁に顔向けできない。帰国後のキャリアにも影響を与えかねない。
・状況改善までに残された手段の確認:
大学にシリバスには秋季の授業の全体の評価は小テスト×2(それぞれ15%)、プレゼン(最終課題分を含む)×2(それぞれ15%)、期末テスト(40%)で構成され、授業が終わるまで、残り小テストが1回、期末テスト及び最終課題のプレゼンがそれぞれ一回あると記載されていた。
・状況改善までのタスク及びスケジュール化:
面談では結論が出ず(ここに至った段階で泣きじゃくり深い議論はできなかったため)
話を聞いた率直な感想は「何とかなるんじゃ無いか」というものだった。既に終わってしまった小テストとプレゼンの結果がダメだったとしても0点では無いはず。これから巻き返せば何とかなると考えた。
また、面談を通じて分かった事はサオジー君は、彼なりに色々と考えているにも関わらず、言語の壁や、忙しい教授を邪魔したく無いばかりに質問することを躊躇する等、思いやりが裏目に出て本来の能力を正しく評価されていないという事がわかった(なお、彼の気質は彼に留まらずM国の人間に往々として共通する事をのち改めて理解する事になる)。
人材育成の奥深さを感じた。